
カット講師・佐谷直樹が語る“スタッフを一人前へ導く教育”
中途採用での入社後、現場で経験を積みながら、Wizの技術教育の要となる「スタイリストデビュー前の集中レッスン」を長年担当してきた佐谷直樹さん。
スタイリストデビュー直前のスタッフが集まり、Wizの技術基準を身につけるこのレッスンは、“スタイリストとして安心してデビューするための最終サポート”とも呼ばれる存在です。
「正解を教える人」から「その子を見る人」へ
——Wizスーパーバイザー佐谷直樹が語る、デビュー前の仕上げと育成の本音
入社11年目。
新店スタイリスト→副店長→店長を経て、現在はWiz全体の“品質”を見守るスーパーバイザー(SV)として、FCオーナーや店舗と向き合っている佐谷直樹さん。
普段はFC店舗の運営状況やスタッフの状態をチェックしながら、会社全体の「Wizクオリティ」を守る立場にいる一方で、スタイリストデビュー直前のスタッフに向けたスタイリストデビュー前の集中レッスンの講師も務めています。
今回のインタビューから、
“技術”と“人”の両方を育てる佐谷さんの視点をまとめました。
——スタイリストデビュー前の集中レッスンって、どんな人が来る場なんですか?
「対象は、カリキュラムを終えて“スタイリストになる準備が整った人”です。
アカデミーや通常の練習を一通りクリアして、『さあデビューに向かおう』というタイミングのスタッフが、最後の仕上げとして受けるレッスンですね。」
少人数で3日間、集中的にレッスンを行なっていきます。
日々の営業中の指導やアカデミーとは別に、
“スタイリストとしてお客様の前に立てるかどうか”を確認し、必要な部分を整えていく、
いわば仕上げを兼ねた場になっているのが、このスタイリストデビュー前の集中レッスンです。

「見て覚えてね」が当たり前だった時代からのギャップ
自身がアシスタントだった頃の教育については、こんな風に振り返ります。
「カリキュラムは一応あったんですけど、スタンスはほぼ“見て覚えてね”でした。
営業中に先輩の技術を見て、自分で盗んでいく感じ。
聞いても『見て覚えなよ』で終わることも多かったですね。」
だからこそ、今のWizの教育環境には強い手応えを感じていると言います。
「今は動画・テキスト・現場指導が揃っていて、
さらにデビュー直前にはスタイリストデビュー前の集中レッスンもある。
当時こういう環境があったら、もっとスタイリストになれていた人は多かっただろうなと思います。
正直、自分もかなりスムーズにデビューできたと思います(笑)。」
スタッフから出てくる「本音」は、技術より“不安”
印象に残っているスタッフの言葉を聞くと、最初に出てきたのは意外にもネガティブな感情でした。
「カットだけじゃなくて、スタイリストになることへの不安を口にする子が多いですね。
まだ準備段階なので、自信より不安が勝ってる状態の子もいます。」
もちろん、ポジティブな声もあります。
「レッスンを重ねる中で、『ここができるようになりました!』って明るく言ってくれる子も多いです。
自信がついた瞬間って、見ていてわかるんですよね。」
不安も自信も、スタイリストになる直前だからこそ出てくる“リアルな感情”。
佐谷さんは、それを受け止めながら技術面・メンタル面の両方に寄り添う指導を行っています。
昔は「正解だけ」伝えていた。そこからの大きな変化
教え方について聞くと、「昔と今ではだいぶ変わった」と話します。
「前は、“正解に対して、どこが違うかだけを指摘する教え方”でした。
『ここが間違ってるよ』『この角度が違うよ』っていう感じですね。」
しかし、それだけではスタッフが大きく変化していかないことに気づきます。
「今はまず、相手の“現在地”をちゃんと刻んで知ることを意識しています。
・この子はスタイルの見極めが苦手なのか
・手順が抜けているのか
・そもそも理論の理解が浅いのか
ここを見ないと、こっちがどれだけ正論で教えてもズレちゃうんですよ。」
レッスン中は、仕上がりだけでなく切っている手順そのものを見続けます。
「途中の手の動きや癖を見て、
『この子にはこういう説明が刺さるな』
『ここが弱点だから、ここから修正しよう』
って、一人ひとりに“オンリーワンの指導”をするイメージです。」

行き詰まりやすいのは「ウィッグから“お客様”へ」切り替わる瞬間
アシスタントが一番つまづきやすいポイントはどこなのか。
「僕のレッスンは、“お客様からオーダーされたスタイルを、きちんと形にできるか”が基準です。
ウィッグで同じスタイルを切れるようになっても、実際はお客様の頭の形や髪質、会話によるすり合わせなどが入ってきますよね。
この“ウィッグ目線 → お客様目線”に切り替えるフェーズで、行き詰まる子は多いです。」
そこで佐谷さんが伝えるのは、単なる切り方ではなく「見方」。
「よく“鼻から何センチ下に段を入れる”みたいな言い方をすることもあるんですけど、
それだと人によって顔の大きさも頭の形も違うので、実はあまり意味がなくて。
僕が伝えているのは、
顔だけじゃなくて、頭全体をひとつのバランスとして見るっていう考え方です。
たとえば“顎から上を全部とした時に、
その中のどの位置にレイヤーが来ているか”みたいな感じですね。
『ここに段を入れる』ってピンポイントで考えるんじゃなくて、
全体の中で、今どの辺に動きや軽さが欲しいかを見る。
そうやって考えると、
人が変わってもバランスのいいカットができるようになります。」
「正論でぶつかるだけ」が、1番の失敗だった
過去の指導の失敗を聞くと、少し苦笑しながらこんな言葉が返ってきました。
「1番の失敗は、“正論だけでぶつかったこと”ですね。
人にはそれぞれ得意・不得意があって、能力の“五角形の形”がみんな違うのに、
へこんでいる部分ばかり突っついてしまった時期がありました。」
本当は伸ばすべき長所をきちんと見ずに、
「ここができてない」「ここがダメ」と弱点にばかり目が行ってしまう——。
「それって、本人の良さを潰してしまうこともあるんですよね。
だから今は、伸ばすべき部分をしっかり伸ばしつつ、
苦手なところは“平均的なレベルでいい”という感覚も持つようにしています。
全員同じ形のスタイリストを作りたいわけじゃないので。」

「伸びるスタイリスト」の共通点は?
デビュー後に伸びていくスタッフの特徴を聞くと、迷いなくこの答えが返ってきました。
「お客様ファーストで考えられる人ですね。
細かい気遣いができて、声のトーンも含めて“お客様に届くかどうか”を意識できる人。」
さらに、目標設定と振り返りも重要だと続けます。
「半年・1年・3年・5年と、先の目標をちゃんと持ってる人は強いです。
失敗しても『じゃあ次どうするか』と向き合って、
指導されたことを素直に吸収できるスタッフは、伸び方が違います。」
アシスタント時代は普通でも、
スタイリスト直前〜直後で一気に伸びる子も多いそうです。
「まずは相手を知る」コミュニケーション
20代前半の若いスタッフと関わる中で、大切にしているコミュニケーションのスタンスもあります。
「基本は“受け身”でいることですね。
自分からガンガンしゃべるというより、まずは“聞き役”に回るようにしています。」
とはいえ、ちゃんと“ジャブ”は打つ。
軽い一言から広がる会話の中で、
その子が何を大事にしているのか、仕事とどう向き合っているのかを探っていきます。
レッスン以外の時間でも価値観や人生観を知ろうとするのは、
伝え方・指導の仕方を一人ひとりに合わせるためでもあります。
「レッスン自体は時間も限られています。
カットだけでなく、カウンセリングやスタンスも含めて
“トータルでスタイリストの土台”を整えるイメージです。」
“最後まで追いかける”Wizの教育
印象的だったのは、「Wizの教育の良さ」を聞いたときの答えです。
「一人前になるまで、最後までちゃんと追うところですね。
『カットできるようになったからデビューして終わり』ではなく、
・デビュー前のスタイリストデビュー前の集中レッスン
・トレーニングサロン『clon(クロン)』での実践
・デビュー後のフォロー
と、いろんな角度から刺激とサポートを続けていく。」
「なかなか自信が持てない子でも、“自信が持てるところまで”教育とサポートを続けるスタンスは、Wizの強みだと思います。」
さらに、このレッスンは参加しているスタッフも勤務時間内・給与も、もちろん支払われています。
「休みの日や営業外に自腹で外部講習に行くケースも多い中で、
会社として“教育に時間とコストを投資している”という感覚は強いですね。」
——なぜSVがカットを教えるのか
最後に、なぜスーパーバイザーである佐谷さん自身が、
スタイリストデビュー前の集中レッスンの講師を務めるのかを聞きました。
「Wizというブランドの“技術レベルのボーダーライン”を揃えるためです。
最終段階のカットを見ると、その店舗・法人の教え方の癖や基準が見えてきます。
ズレがあれば、オーナーさんにもフィードバックして、一緒に整えていく。」
レッスン中は、スタッフ一人ひとりの癖・課題・良いところを細かくメモし、
その日のうちにオーナーへ共有。
場合によってはオーナー自身をレッスンに呼び、
“教え方そのもの”をアップデートすることもあります。
「スタイリストデビュー前の集中レッスンは、スタイリストのためだけじゃなくて、
店舗の教育レベルやブランドクオリティを整えるための場でもあるんです。」
佐谷直樹
スーパーバイザー(SV)
カット講師として技術教育の要となる「スタイリストになるに向けてのデビュー前集中レッスン」を長年担当
